The Great Wall 米中合作で2016年に公開された映画。主演マット・デイモン 監督はチャン・イーモウ。巨額予算を掛けた映画。タイミングとしては米国での大統領選挙の年。興行成績や映画評は良くなかった。場面場面で意表を突く映像はあり、映像は楽しめる。ただそもそも中国で発明された火薬を求めて、デイモンたちが長城(万里の長城)にたどりつくという出だしから、中国の宣伝映画の臭いがして、息苦しくなる人はいるかもしれない。また面妖な怪獣との闘いが主に描かれるのだが、なかなかその世界観に共感はできない人も多いかもしれない。男女の愛憎も、立場による葛藤もなく、ただ怪獣とのバトルが連続する展開は、正直に言えば幼児向けに見え大人の観客の嗜好には合わない。政治を外して娯楽作品にするとしても、もっと心理描写を中心に作れなかったものか。この心理描写の浅さがこの映画の評価を下げた点ではないか。その意味で、長城で防いでいるものをそもそも怪獣にする必要が逆にあったのかと思わないではない。
movie clip
ところで私がこの映画製作で注目したのはマット・デイモンら白人俳優起用について起きたwhitewashing批判である。whitewashingは本来、非白人俳優が起用されるべきところを白人俳優を起用することを批判する言葉。またその時に、非白人の役割が侮蔑的な役として演じられていないかも議論されている。しかしこの映画の中で白人俳優たちは活躍するのだが、あくまで中国文化の引き立て役であり、中国への敬意を保っているように見える。チャン・イーモウは白人俳優を主役に起用しつつ、彼らが中国へリスペクトする姿を描こうとしたように見える。つまりwhitewashing批判は成り立たないと私は考える。むしろ中国側は、デイモンたちを利用して、西欧人が中国に畏敬の念を抱く姿を描き、かつ宣伝塔として合作映画の興行的成功を期待したのでないか。しかしその中国側の意図はあまりにも見え過ぎたのかもしれない。
whitewashにはうわべを取り繕うという意味があり、それと白人を起用するという意味とを掛け合わせていると思われる。環境問題について、これと似たgreenwashあるいはgreenwashing批判がある。具体的には、企業が自社製品や活動を具体的な根拠なしに、「環境にやさしい」と宣伝する行為が厳しく批判されている。
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